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【喪服のマナー】葬儀のあと、喪服で飲食店に入っていいの?

葬儀に参列したあと、久しぶりに顔を合わせた知人とどこか飲食店に入って話をしたい……。よくありがちなシチュエーションですが、気になるのが“喪服でお店に入っていいの?”ですね。
「家に帰る前に精進落としをしなくちゃだから、当然、飲食店に入るのはOKでしょ?」「ほかのお客さんの目もあるから、喪服で飲食店はNGでしょ」「レストランや居酒屋はNGだけど、カフェならよいのでは?」など、さまざまな意見が寄せられましたが、いったいどれが正しいのでしょうか。喪服で外食をする際のマナーについて解説します。

そもそも、なぜ喪服が忌み嫌われるのでしょうか

喪服で飲食店に入ると、周囲から嫌な顔をされるのではないか……そう考える人が多いのは、喪服は死を連想させ、死はけがれであり忌むべきものといったイメージがあるからです。

「喪に服す」という言葉がありますが、これは「死はけがれである」という神道の考えに基づいたものです。身内が亡くなった時、その家族は一定期間、喪服を着て故人の冥福を祈り、祝い事などを避け慎んで過ごすといった慣習があります。このようなことから、戦前までは喪服を着るのは遺族のみでしたが、時代の流れとともに変化し、今では葬儀・告別式の会葬者は全員が喪服を身に着けるのがマナーとなっています。

ですから、喪服で飲食店に入れば嫌な顔をするお客さんもいるでしょう。お客さんだけでなく、お店のスタッフにも良い顔をされないケースもあります。実際に数年前、新聞への読者投稿が発端となり、大きな議論になったことを覚えている人も多いのではないでしょうか。

その投稿によれば、ある男性が葬儀の帰りに喪服で寿司屋に寄りました。男性が食事を終えて店を出た直後、店内から「塩をまいておけ」という主人の声が聞こえ、不快な気持ちになったそうです。はたして、喪服で飲食店に入ることはマナー違反になるのでしょうか。この投稿はワイドショーなどでも取り上げられて大きな反響を呼び、賛否両論の渦が巻き上がりました。しかし、識者の意見も割れ、結論が出ることはありませんでした。

では、「精進落とし」のために喪服で飲食店に行くのはOK?

「精進落とし」は初七日法要や火葬のあとで遺族から僧侶や親族らに振る舞われる食事のことで、通夜に参列した一般の会葬者に振る舞われるのは「通夜振る舞い」と呼ばれます。
仏教の教えから、遺族は故人が浄土に行けるように忌が明ける四十九日までは肉・魚が含まれない精進料理を食べて過ごし、四十九日の法要が明けて肉・魚を含むごちそうを食べました。これが「精進落とし」の由来です。

宗派や地域によっても異なりますが、通常、精進落としは葬儀会場で振る舞われることもあれば、近くの料亭などに席を設けて行われることもあります。料亭などでは個室や離れが使われ、一般のお客さんと顔を合わせることはないため、もちろん喪服で構いません。
要するに「精進落とし」というのは遺族から振る舞われるもので、“飲食をすることで葬儀の忌みや穢れを払う”という意味はないため、葬儀のあと「精進落としをしよう」と飲食店に立ち寄るのは、ちょっと意味が違うということなのです。

ただ一時期、新型コロナウイルスの影響で通夜振る舞いや精進落としを避ける傾向もあり、久しぶりに顔を合わせた人たちと飲食を共にし、ゆっくり故人を偲ぶ機会が得られず、寂しい思いをした方も多いのではないでしょうか。そんな時は、葬儀のあと、近くの飲食店を利用したいという気持ちも理解できます。

葬儀のあとで飲食店に立ち寄る注意点

では、どのような点に注意すれば葬儀後、飲食店に立ち寄ってもOKなのでしょうか。前述の寿司店で「塩をまいておけ」の声を聞いた男性は、その後、喪服で飲食店に立ち寄る際はネクタイを外すようにしているそうです。男性の場合は黒ネクタイを外し、さらに上着を脱いでワイシャツになれば、ほとんど喪服とはバレずに済みますね。
しかし女性の場合、そうはいきません。時期によっては喪服の上から薄手のコートを着たまま過ごしたり、ジャケットを脱いで代わりに羽織れるシャツやカーディガンなどを持参してはいかがでしょう。


そのほか、個室や半個室、ボックス席など、できるだけほかのお客さんと顔を合わせずに済む席があるような店を選んだり、店に入る前に店員さんに一言、葬儀後であることを伝えて隅の席に案内してもらったりするのもよいでしょう。
もうひとつ忘れてはならないのが、お店に入る前にはお清めの塩を使っておくことです。清めの塩は葬儀のあとで配られたり、香典返しの袋に入っていたりします。
塩は古くから、穢れや不浄を清めるために使われてきました。神道では死をけがれと考えることから、葬儀のあとは身体に塩を振ってけがれを払い、清めるのが一般的です(ただし、仏教では死はけがれと考えず、また宗派や地域によってもお清めに塩が使われない場合もあります)。

お店に入る際に、もちろん「お清めの塩は振ってから入店しますよ」ということを店員さんに伝える必要はありません。しかし、自分自身の気持ちの持ちようとして、マナーに配慮したことで気持ちが軽やかになり、入店しやすくなるのでおすすめです。 その際、店先で塩をまくのはNG。なにも体中に振りかけずとも、葬儀場を出たところで、足元にまいてそれを踏むといったやり方でも大丈夫です。

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