長崎県人がご案内! 夏休みに訪れたい長崎の壮大・華やかな「初盆・精霊流し」
故人が亡くなって初めてのお盆のことを地域によって、初盆(はつぼん・ういぼんなど)、新盆(にいぼん・あらぼん・しんぼんなど)等と呼び、さまざまな風習があります。なかでも独特なのが長崎の「初盆(はつぼん)」です。
長崎のお盆期間は、大音量の爆竹が響く精霊流し(長崎では「しょうろうながし」と呼んでいます)やお墓での花火など、街中が賑やかな雰囲気に包まれます。“一度は訪れたい”と称され、見どころ満載の「長崎のお盆(初盆)※特に8月15日に行われる精霊流し」について、初盆の準備から実施までを請け負う「株式会社メモリード」の瀬戸さんに、見どころを直撃。 今年のお盆は、家族で長崎旅行を計画してみてはいかがでしょう。
お話をお聞きした方
株式会社メモリード 長崎事業部 施行部 部門長
瀬戸晃一さん
新卒でメモリード入社後、営業部門を経て葬祭部門に配属となり9年半が経過。葬祭部門の最初4年間の夏(4~9月)は初盆営業に携わり、多くの初盆の準備から実施までを担当した経験を持つ。メモリードでは、4月下旬~8月上旬まで初盆展示会を常設し、初盆に必要な用具やサービス一式を提供する
(詳しくはメモリード初盆特設サイトへ)
お盆とは? 初盆とは?
お盆は年に一度、先祖の霊を家に迎えて供養し、再びあの世に送る行事です。特に、家族が亡くなって四十九日の忌明け後に初めて迎えるお盆は初盆(新盆)と呼び、盛大に供養を行います。一般的な初盆法要は、親戚一同が集まり、僧侶による読経、焼香、会食(場合によっては墓参り)という内容です。初盆の迎え方には地域によってさまざまな風習があり、特に長崎県の精霊流しは特筆すべき壮大さ、華やかさがあります。
爆竹の音が鳴り響く長崎ならではの初盆行事
長崎では、故人が亡くなって初めてのお盆を初盆(はつぼん)と呼び、全国的に見ても珍しい風習や行事がたくさんあります。
「もっとも特徴的なのは毎年8月15日に行われる初盆の伝統行事“精霊流し(しょうろうながし)”です。灯をともした灯籠や供物を海や川に流す“精霊流し”は各地にありますが、長崎の精霊流しは特徴的なものとなっています(※1)。
故人様の霊を弔い、極楽浄土へ送るために行いますが、他県で見られる精霊流しは静かで厳かなのに比べて、長崎の精霊流しはとにかく賑やか。初盆を迎えた家では、盆提灯や造花などで華やかに飾られた“精霊船”を用意し、街中の通りを海に見立てて船を引っ張って(流して)、“流し場”と呼ばれるゴールを目指します(※2)。
このとき、“カーンカーン!カーンカーン!”という鐘の音や、“ドーイ!ドイ!”という掛け声、そして盛大に爆竹を鳴らしながら行列が進み、沿道には大勢の見物客が詰めかけ賑わいます」
(瀬戸さん・以下同)
※1)長崎と同じ賑やかな精霊流しは、佐賀県や熊本県の一部でも行われています。
※2)長崎市では1871(明治4)年以降、精霊船を海に流すことを禁止しています。流し場に到着した船はごみ回収の観点からそこで解体されます。
精霊船は、家ごとの“個人船”と、合同の“もやい船”の2種類
コロナ禍前には最大約3,500隻が流されたこともあるという精霊船には、各家で用意するものと、自治体などで用意する“もやい船”(※もやい(舫い)とは、船をつなぐことや、2人以上で一緒に作業すること)と呼ばれる合同の船とがあります。
「精霊船は主に竹や木の板、藁などを使って造られ、長く突き出た船首には家紋や家名が記されます。個人船は十人十色、ひとつとして同じものはありません。同じ精霊船のフォルムをしていても、故人様の趣味や趣向にちなんだ多彩な飾り・造形が取り入れられていて、ご家族のみなさんが故人様を偲ぶ気持ちがひしひしと伝わってきます。最近は流し手不足や経済的な理由から各家庭で流すことが難しいケースも多くなっていて、その場合は自治体や、弊社のような葬儀会社が主体となる“もやい船”にお乗せし、合同で流します。もやい船は船の大きさが3連や4連ととても大きく、見応えがあります。加えて、昨今ではペットを送る精霊船も増えてきているんですよ」
人気の見物ポイントは、旧・長崎県庁前の坂、通称「県庁坂」
長崎市の中心部で行われる精霊流しでは、夕方頃から各家や地域を出発した精霊船が、長崎港内の“大波止”に設けられた流し場を目指し数時間をかけて街中を移動します。
「見物するなら“県庁坂”がおすすめで、テレビ番組やニュースの中継・撮影ポイントとしてもおなじみの場所です。ここには毎年多くの見物客が集まり、家族連れの観光客も多く見受けられます。坂の道路脇では、ほかの場所よりも近くで精霊流しを体感することができ、迫力満点です。日が暮れてから、提灯の光をともした船がこの坂を下ってくる様子は、幻想的でもあります。ただし、ご注意いただきたいのは精霊流しの見物は立ちっぱなしになること。長時間の立ちっぱなしはお子さまの負担になる可能性もあり、明確な開始時刻がない精霊流しですので、多くの船が流され始める18時以降からの見物をおすすめします」
耳栓・長袖・長ズボンを準備。足元はサンダルではなく靴で
精霊流しを見物に行く際の注意事項についてもお聞きしました。
「各船では爆竹が多く使用されるため、絶え間なく大きな爆発音に囲まれます。道路脇で見物される際には“耳栓”が必須アイテム!市内のコンビニでも売られていますが売り切れ続出なので、持参されたり、早めに購入したりしておくとよいでしょう。そして、風向きによっては火の粉や煙が流れてくるので、腕や足を守れるよう長袖またはアームカバー、長ズボンの着用、サンダルではなく靴の着用をおすすめします(飛んでくる火の粉は小さいので大きなやけどになることはほとんどありません)。もうひとつ注意していただきたいのが、交通規制について。15日の精霊流しは一般道路を封鎖して行われるため、17時から深夜までメインコースの主要道路は交通規制がかかり、一般車両や路線バス、路面電車すべて通行不可に。ですので、精霊流し以外の長崎観光は15日の交通規制に留意してお楽しみください。」
精霊流し以外にも、長崎ならではのお盆の楽しみが!
長崎のお盆と言えばもうひとつ有名なのが“お墓で花火”。いつ、どのようなタイミングでどんな花火を行うのでしょうか。
「長崎では、お盆中いつでも、昼夜を問わずに、お墓で花火を行います。小さなお子さんがいるご家庭では、毎日お墓参り=花火をしにいくご家庭もあるほどです。昼間の墓参りでは、手持ち花火だけでなく、“矢火矢(やびや)”と呼ばれるロケット花火を盛大に打ち上げます。日が暮れてからの墓参りでは、墓石の両サイドにある穴に提灯用のポールを立て、家紋入りの提灯をぶら下げて明かりをともすのも特徴的な景色でしょう。こどもは花火をしながら、大人は持参したビールやお酒を飲みつつ、しばらくお墓で過ごします。そして墓参りが終わったら提灯を片付けます。また、お墓で花火をする風習からか、親戚のこどもに“花火代”を渡す風習もあります。お年玉のようなもので、その花火代でお墓でする花火を購入するのです。長崎市内には花火専門店が多数あり、1本単位のバラ売りをしています。ちなみに、精霊流しに使う爆竹代は数万円から十数万円、二十数万円に上ることもあり、いかに長崎のお盆に花火や爆竹が欠かせないものかがわかります。観光客は墓地に立ち入ったり、花火をしたりはできませんが、お盆の期間中に市内を歩けば、あちらこちらの墓地で賑やかな音に包まれた、長崎のお盆を体感することができますよ」
日本が鎖国時代にも開かれていた長崎には、外国の影響を受けた文化や風習、宗教などが色濃く残っています。古くから中国との交流も深く、精霊流しで爆竹や花火を使用するのは中国の影響によるものとも言われています。そんな歴史的背景も踏まえながら長崎のお盆を体験したり、観光地を巡れば、ご家族で心に残る旅ができるのではないでしょうか。