コラム:お月見
小谷みどり シニア生活文化研究所 代表理事
シンガポールの十五夜
私はシンガポールに住んでいた時期があります。赤道直下の国シンガポールには、四季がありませんが、年中行事がいくつかあります。
その一つが、中秋節です。旧暦の8月15日が中秋節で、日本でいう「十五夜」や「中秋の名月」です。日本で一般的に使われているカレンダーでは、2023年は9月29日がその日に当たります。
シンガポールの十五夜名物「月餅(ムーンケーキ)」
シンガポールでは毎年9月に入ると、街中のレストランや菓子店、製パン店で月餅(ムーンケーキ)が売り出され、知人や会社の同僚などで、月餅の詰め合わせを贈り合います。中秋節に月餅を食べるのは、もともとは中国の風習です。神戸や横浜の中華街では、月餅は年中販売されていますが、本場では、月餅は季節限定のお菓子なのです。
月餅の平らで丸い形は、満月に見立てていますが、五穀豊穣や家族円満の意味も込められています。シンガポールでは、南国の果物であるドリアンやマンゴーの餡が入った変わり種月餅もありますし、チョコレートやイチゴが入った洋風月餅もあります。高級ホテルでは、シャンパントリュフ入りの月餅を販売し、取引先の上客への贈り物として人気があります。とにかく、中国や台湾、シンガポールなどでは、9月はどこのお宅も、頂きものの大量の月餅の消費に頭を悩ませます。
日本の十五夜
一方、日本では、月餅ではなく、お月見団子を供え、秋の七草のひとつ、ススキを飾ります。ススキには魔除けの意味があり、災いから収穫物を守り、翌年の豊穣を祈る意味も込められています。満月は毎月出ているのに、9月の中秋の名月だけをめでるのは、この時期が収穫の季節でもあるからです。
お月見団子は十五夜にちなんで、15個をピラミッドのように積み上げ、月がみえる床の間に供えるのが一般的です。しかし最近では、床の間がないお宅が増えており、お供えのためではなく、お月見団子は行事食にもなっています。
お月見の習慣は、平安時代には中国から伝来してきたとされています。月の影がウサギに見えることから、「満月には、ウサギが餅つきをしている」という伝説もよく知られています。日本では、昔から9月の満月を眺めながら、家族だんらんをしていたことに思いをはせながら、子どもたちと、今年の十五夜には、お月見団子を作ってみませんか。