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コラム:正月と家族写真

田口祐子 一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団 冠婚葬祭総合研究所 研究員・開智国際大学 非常勤講師

家族写真の撮影が多い正月

 皆さんは家族写真を撮りますか。最近はスマホで気軽に写真が撮れるので、家族の写真を撮る機会が多くあるかと思います。「家族写真を撮りますか」とお聞きすると、家族が誰かしら写っているというよりも、家族が揃った写真をイメージすることが多いようです。そうなると、なかなか皆が揃う機会がなく、撮影できる機会は絞られてきます。小さい子どもがいればお祝い事の時が多いようですが、それ以外では正月と答える人が多いです。

家族写真とアルバム

 家族写真を正月に撮るのは、今に始まったことではありません。古いものでは、明治23年に風刺画家ビゴーが描いた正月の写真館の絵があります。富士山の絵をバッグに帽子にパイプで羽織姿のお父さん、でんでん太鼓を振る男児を膝に座らせた日本髪で着物のお母さんを写真屋さんが撮影している構図で、順番を待つ人で正月の写真館は繁盛しています。
 最近、アルバム用に家族写真を盆と正月に撮影する方の話を読みました。15年以上続け、アルバムにした家族写真をみると、誰かが大きくなり誰かは年老いて、亡くなった人はいなくなり、結婚や出産で加わる人もいて。その様子はまるでファミリーヒストリーだと語っています。
 家族写真は記録が目的の一つですが、アルバムにすることで家族の過去・現在・未来とのつながりを実感させ、見返して励ましのような力をくれることもあります。

家族アルバムのもつ意味

 千葉県稲毛でカメラ店を営む中川さんは、写真が貼られた家族アルバムは「絶滅の危機に瀕している」と嘆きます。現在写真は頻繁に撮影されるものの、メモリ媒体やSNSサーバーの中に蓄積されるばかりだと聞きます。
 東日本大震災で、避難所にいた人たちが自宅に戻って最初に探し求めたのは家族写真だったといいます。被災地で写真洗浄、復元プロジェクトを立ち上げた団体のひとつ、富士フィルムが活動報告を自社Webページに掲載しています。そこには、年月を経てさらに写真の価値が高まることを実感したとする一方、ここ10年間でプリントされた写真がほとんどないことにショックを受けたとあります。デジカメやスマホの普及に伴い、写真がプリントされなくなったことが明らかになったのです。写真データの保存媒体には寿命があり、データが壊れると失われる可能性もあります。
 さきほどの盆と正月に家族写真を撮る方は、そのうち撮影係を子どもが受け継いで、自分が写真からいなくなる日がきても、親族の中で続いてくれればとひそかに願っているそうです。
 1年のはじまりをアルバムに入れる家族写真で始めるのもいいかもしれませんね。

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