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コラム:晴れ着をプレゼント

一条真也 作家・一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団 副理事長・株式会社サンレー代表取締役社長・九州国際大学客員教授

晴れの日には晴れ着を

 2021年より、わたしが経営する冠婚葬祭互助会は児童養護施設に入居している新成人に晴れ着などを提供、記念写真を撮影する取り組みを始めました。施設の入居児童に対しては従来、18歳未満までの支援が行われてきましたが、それでは社会的自立が難しいため、2017年度から22歳の年度末まで入居が可能となり、施設内で成人式の年齢を迎えるケースが増えてきました。しかし、経済的に晴れ着を借りられない新成人がほとんどで、一生の記念となる成人式の写真も持っていません。儀式を大切にする「礼の社」を目指している弊社では、経済的理由から人生の節目を実感できない児童のケアのため、晴れ着やバッグ、草履などの貸衣裳一式を貸与し、プロのカメラマンが記念写真を撮影してプレゼントすることにしました。同様に、経済的理由から七五三の晴れ着撮影ができない児童養護施設の児童に対しても、晴れ着の提供を呼びかけました。毎年多くの児童が七五三の晴れ着姿を撮影しています。2023年より、希望する児童に神事の提供も始めました。

すべての人に儀式を

 七五三は不安定な存在である子どもが次第に社会の一員として受け容れられていくための大切な通過儀礼です。成人式はさらに「あなたは社会人になった」「おめでとう」と伝える場であり、新成人はここまで育ててくれた親や地域社会の人々へ「ありがとう」「立派な社会人になります」という感謝と決意を伝える場ではないでしょうか。長寿祝いも含め、すべての通過儀礼の本質は「あなたが生まれたことは正しい」「あなたの成長を世界は祝福している」という存在肯定のセレモニーです。冠婚葬祭互助会としての弊社は、万物に等しく光を降り注ぐ太陽のように、すべての人に儀式を提供したいという志を抱いています。

思いやりをカタチに

 「コンパッション」という言葉があります。「ウェルビーイング」と並んで時代のキーワードになっています。平たく言えば「思いやり」のことですが、キリスト教の「隣人愛」、儒教の「仁」、仏教の「慈悲」などにも通じる人類の普遍思想です。晴れ着の無償レンタルはコンパッションをカタチにした取り組みです。晴れ着提供をうけた新成人や児童たちの笑顔を見ると、こちらまで幸せな気持ちになり、もっと多くのコンパッションを広げていきたくなります。いわば幸せの連鎖です。ひとつのコンパッションが大きなうねりとなり、心ゆたかな社会が実現していくのだとわたしは考えます。

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