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コラム:人と動物の死別

島薗進 東京大学名誉教授・大正大学地域構想研究所客員教授・上智大学グリーフケア研究所客員所員

死別の悲嘆を支えるもの

 人間は大切な人の死を経験すると深く悲しみます。その悲しみは立ち直ることがとてもできないほどに感じられることもあります。また、悲しみが長く続いて、明るい表情を取り戻すことが困難な場合もあります。取り残されたように感じ続ける人もいるのです。深い悲しみにある遺族にとって、通夜や葬儀、そして法事などで親しい人々が悲しみをともにすることが助けになることは少なくありません。儀礼には人が悲しみながら生きる力を取り戻していくのを支える働きがあります。では、動物はどうでしょう。親子やきょうだい、あるいは親しい仲間が死んでいくとき、動物はどう感じどう行動するのでしょうか。

人は動物の死を悲しむ

 ペットを飼ったことのある人は、動物の死に際して人間が悲しむことは知っていることでしょう。生きている間、あれほどになじんで喜びや安らぎをからだ全体で表すこともあった生き物です。たとえば、ペットの犬や猫と飼い主の人間との間に気持ちの通い合いがあることは多くの人が経験しています。その動物のいのちが失われたとき、人は涙を流し、悲しみに暮れる。ならば人と動物の間に愛のこもった交わりがあり、愛する生き物が失われたら心が悲しみでいっぱいになるのは自然だ、こう感じているでしょう。

遠くまでお別れに来たペット犬

 私が20歳代の頃ですが、家族が10年あまり飼っていたピッキーという名のマルチーズが、夜中の3時に死にました。そのとき、私の姉は結婚してかなり遠くの4階建てのアパートの3階に暮らしていました。ペットを飼ってはいけないアパートです。ところが、ちょうとその3時頃、姉は犬が吠えるのを聞いたというのです。犬の声が聞こえるはずがない環境で寝ていたのにそういうことが起こったそうです。姉は犬がお別れを告げに来たことになりますが、幻覚だとしても相互の情愛を信じていればこそのものです。

飼い主が悲しいように動物も悲しいはず

 ペットの動物の側が飼い主との死別の悲しみを表現した証拠はなかなか見つけにくいでしょう。しかし、長時間出かけるときに犬や猫が寂しがっているように見えたり、帰ってきたときにうれしそうに迎えてくれる経験はふんだんにあることでしょう。そうだとすれば、死別に際して悲しみを感じないわけはない。私の姉の経験は、そんな人間の側の感じ方をよく表しています。

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