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コラム:動物にとっての喪失と寂しさ

島薗進

ペットの寂しさ

 ペットが飼い主に親しみを示すとともに、飼い主がいないことで寂しさを感じていると思っている人は多いと思う。これはどの動物であるかによって相当に異なるはずだし、また同じ動物でもさまざまな要因で違いがあるだろう。私が家で飼っていたのは犬と小鳥と金魚だが、少なくとも犬のなかには人への親しみを派手にとでも言えるぐらい表現する個体がある。私の子供たちが中学、高校の頃に飼っていたミニチュア・シュナウザーは、留守の家にいて私が帰宅するとまことにうれしそうにやって来て、跳ねるようにしてじゃれてきた。しばらく抱いたり撫でたりしていると次第に大人しくなるが、その様子を見ると私はひとりでいるのが寂しかったのだな、と思うのを常とした。

ペットと人の遊び

 ペットは餌をくれるから頼ってくるのだという捉え方もできるだろう。小鳥や野生の動物を慣れさせるためには餌付けが一番だとされており、それを試みた人もいるだろう。だが、ペットと飼い主との親しみは、水や餌など生存の基盤を整えてくれるというだけによるものでないのは当然だ。ペットと人が楽しそうに遊ぶ光景を見たことがある人も少なくないだろう。いっしょに遊ぼうというそぶりでペットが近づいてくることもある。犬の場合、散歩に連れて行ってくれとせがみ、散歩に連れていく準備をすると大喜びをするといった経験も珍しくない。
 もし、そのようにペットが人との交わりで生き生きとするようなことがあるのだとすれば、その相手がいなくなることは大きな喪失になるのではないか。ここで思い出すのは、忠犬ハチ公の話だが、いずれじっくり考えてみることにしたい。

母から切り離されたペット

 他方、ペットの側から考えてみると、家で1匹だけで飼われている犬はそもそも寂しいのではないだろうか。飼い主は自分がかわいがっており、飼い主の愛をたっぷり受けているから満足だと思っているかもしれない。だが、散歩して他の犬に会うととても喜んだり吠えかかったりするのはなぜか。本来、仲間とともに暮らすものではないのだろうか。そもそも赤ん坊のときに飼い主のもとに連れてこられた犬は母親やきょうだいから引き離されたことで大きな喪失を感じているのではないか。それは悲しみの始まりではないのだろうか。猫を拾って来て飼うようになった人はどうか。もらわれたり、拾われて来た動物の悲しそうな表情、あるいは悲しそうな様子を思い浮かべる人は多いのではないか。

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